このたびcallboxではこけら落としとして、画家の菊地風起人さんによる「日常と現代アートを泳ぐスワン」を5/7(日)より開催いたします。

菊地さんは昨年開催した個展において、『アンビエント・ミュージック(環境音楽)』という言葉を1つのキーワードにあげました。聞くことを強制したりせずその場に漂う空気のような存在になる音楽を指す言葉です。
その個展では以前よりも白さを帯びた作品が壁と同化し、描かれた人がキャンバスの背景から抜け出して、空間に生き生きと佇んでいたことを覚えています。
これは菊地さんが鑑賞者と作品という一方通行な関係性ではなく、人と人が出会うことを意図とした結果であり、「鑑賞者が作品を受け入れるのではなく、作品そのものが鑑賞者を受け入れていく」という菊地さんが制作当初から持つコンセプトと通じています。
callboxは、駅からギャラリーまで専門学校や商店が立ち並ぶ細い1本道の途中に存在し、ガラス越しに鑑賞するギャラリーです。そのため外の影響を様々に受けることになると思います。
日常と隣り合わせのこの場所で、菊地さんの分身である作品がどのように溶け合い、人と関係していくのか楽しみにしています。
また上記展示と合わせて菊地さんと交友の深い稲垣柚実さんが、菊地さんとの関係やギャラリーがある大久保での体験について綴ったイラストエッセイをcallboxにてお配りいたします。
合わせてご観覧いただき、楽しんでいただけたら幸いです。
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日常と現代アートを泳ぐスワン
菊地 風起人
期間 : 2023年5月7日(日)〜6月4日(日)
イラストエッセイ : 稲垣柚実
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写真:Tomoko Rikimaru





[ 大久保駅にて独りごと ] 稲垣柚実

コールボックスがある大久保駅に向かうとき、総武線が止まっていたので中野から歩いて行ってみた。線路に沿った一本道を歩くと、にぎやかな道から閑静な住宅街、数メートル歩くたびに街の雰囲気がぐるぐる変わって行った。

フッキーこと菊地風起人とは、友達歴10年くらい。ずっと一緒にいたわけでもないんだけど、隣にいたら話を聞いてくれて優しい言葉もかけてくれる。かと思えば「どうでもいい」「なんでもいい」が口癖で、寄り添おうと思ったら離れて行く、空虚なイメージが強い。そんな友人だ。大学を卒業してから私は就職して、フッキーは絵を描き続けていた。展示の機会がない私は、フッキーの展示に合わせて制作を手伝わしてもらったりしていて、今思うと、相手の空虚なところを利用して自分の制作する機会を作ろうとしていたような気がする。フッキーにとってそんなところはどうでもいいし、なんでもいいんだと思うけど。

ただまっすぐ歩いていたら新宿の方へ行ってしまっていて、ぐるっと引き返して大久保駅に着いたときには、足がくたくた。とにかくさっさと店に入って休みたい。大久保駅南口からギャラリーまでの一本道は、ど派手な色の台湾の寺院や教会、専門学校、占いの館、立ち食い蕎麦屋と各々の個性が強烈で、ちょっとひと休みという気持ちではどこも立ち寄りがたかった。ここならいけそうかも。と思って入ったタイ料理屋「イサーンキッチン」で、カオマンガイ定食をたべた。サラダ・スープ・デザート・マンゴージュース付きで1000円。お店の人が優しくて、心細かった気持ちが満腹感と一緒に少しずつほぐれていく。カオマンガイのソースはニンニクがよく効いていて、家に帰って歯を磨いても、翌日もニンニクの匂いが残っていたような気がする。