

– 企画展 vol.10 –
callboxでは2月23日(日)より、保泉エリ による展示「プライベートパブリック」を開催いたします。
以下、作家が展示に寄せたテキストとなります。
–
私たちの身体は、見る/見られるという関係性の中で、どのように存在しているのだろうか。
本展は、未成年時の性暴力被害という保泉自身の経験を起点としている。過去の経験は日常を揺るがすものでありながら、人体彫刻の制作や鑑賞の場では、静かに身体と対話することができた。その感覚を手がかりに、制作者、鑑賞者、モデルという異なる立場を行き来しながら、「プライベート」と「パブリック」の境界線上で生まれる複雑な関係性を探る。
展示は二部構成の映像インスタレーションである。前期では、彫刻家・町野紗恭による等身大の人体彫刻の制作過程を記録する。粘土から石膏へと姿を変える過程で、保泉はモデルと制作に携わりながら、そこに内在する他者の眼差しを考察する。後期では、完成した彫刻を新宿区百人町3丁目のポケットパークへと運び、鑑賞する。戦後の都市開発によって生まれたこれらの小さな公園は、人々に距離を置かれた公共空間として点在している。かつてこの区域には化学兵器開発を行う第6陸軍技術研究所があった。空襲被害を受けた後、人々が築いた住居の名残で生まれた空間が整備された。憩いの場になりきれないポケットパークの曖昧な存在感と、保泉の過去・現在が重なり合っていく。
会場となるcallboxは、スタジオやバーなどさまざまな店舗が集積した複合ビル内にある小さな空間である。一枚のガラスが展示空間と日常の境界をつなぐこの場所で、人生と制作・鑑賞、公共性について、来場者と静かな対話をしてみたい。
※本展は、性暴力被害やトラウマに関連する内容を含みます。来場者ご自身の心身の状態に配慮してご鑑賞ください。
–
プライベートパブリック
保泉エリ(@erihozumi)
前期会期:2025年2月23日 (日・祝) ~3月7日 (金)
後期会期:2025年3月9日 (日) ~3月22日 (土)
OPEN:10:00-22:00
※3月8日(土)は展示替えのため休廊
主催・企画:保泉エリ
共催・協力:callbox
制作協力:町野紗恭・吉田真也・松尾宇人
デザイン:callbox
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団
アーツカウンシル東京[スタートアップ助成]
–
[ 展示会評 ]
callboxとして初の二部構成で行われた本展。
前期は、保泉自身を中心に“見る・見られる”という関係が展開された。
保泉の人体を塑像した彫刻家・町野紗恭が、その作業風景と共に「人体彫刻の制作」に対して淡々と語る映像が流れる。
その狭間で、センシティブな経験がありながらも作家という道を選んだ保泉が自身をモデルとする裸婦像の制作に加わりながら、日常の中で感じ取ってきた人体彫刻における経験を「私の制作について」という題で綴っている。
そして後期では、完成した人体彫刻を通じ、第三者である「鑑賞者」との“見る・見られる”という行為に視点を移行した。
大久保エリアの複数のポケットパーク間を、動かない存在である裸婦像が巡るという展示は、その光景を偶然見かけた街の「鑑賞者」にとって、違和感を持つ行為であったと考えられる。
それは、callbox内での展示においても同様に繰り広げられた。
callboxは、共用通路からガラス越しに鑑賞することを前提としたショーケース型の展示空間であるが、裸婦像は、隙間からのぞき込むようなかたちでしか鑑賞できないよう、正面のガラス窓を半分以上カーテンで覆った裏に設置された。
また、ポケットパーク間の移動展示を記録した映像の傍らには、当時の様子を撮影した写真が裏返しの状態で壁に貼られた。
現像面は、展示空間外に配布用に設置されたL版写真が用意され、鑑賞者が自らの意思で手に取り裏返すことではじめて明らかになる。
callboxに面する共用通路は私道と公道を繋ぐ形で存在しているため、様々な目的を持った人が日々通行し、日常とともに鑑賞という行為がこの場所では生み出されているといえる。
通常ホワイトキューブ型の展示空間や街中で設置される人体彫刻は、作品と鑑賞者が同じパブリックな環境の元で対峙していると捉えられるが、今回保泉はcallbox内に自身のプライベートな環境を作り上げ、彫刻と対峙する際の一方的な「見る」という行為とは違う関係性を図った。
鑑賞者はプライベートという閉ざされた現象を自らの意思で覗き見る。それは通行人や別の鑑賞者からの視線、そして作品そのものからも「見られる」という関係が同時に発生している。
この環境と状態からは、自らの経験を元に人体彫刻との間に新たな対話を生みだそうとする保泉自身の強い意思が感じられた。
[ 記録 _ 前期 ]






[ 記録 _ 後期 ]






写真:Inagaki Kenichi
–



















写真:Tomoko Rikimaru